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大阪地方裁判所 昭和37年(ワ)7号 判決 1963年3月14日

原告 ホープ産業株式会社

被告 後藤佳那

主文

被告は、原告に対し金一二万九二四〇円と、これに対する昭和三七年一月一四日から支払ずみまで年五分の金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は五分して、その二を原告の、その三を被告の負担とする。

この判決は、金二万円の担保をたてれば、原告勝訴の部分にかぎり仮執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し金二四万円と、これに対する昭和三七年一月一四日から支払ずみまで年五分の金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決および仮執行宣言を求め、請求原因として、

一、原告は、大阪市南区高津町五番丁三一番地の三宅地一七二坪の所有者であるが、被告はなんらの権原なく、この土地の北隅二一坪三合五勺(以下本件土地という)の上に木造瓦葺二階建居宅一棟建坪一四坪二合二階坪一四坪二合を所有して本件土地を不法に占有していたので、原告は被告に対し、大阪地方裁判所に右家屋収去、土地明渡の訴を提起し、昭和三四年三月二四日原告勝訴の判決の言渡を受けた。この判決には仮執行宣言が附されていた。

二、被告は、この判決に対し控訴したが、昭和三五年一〇月七日大阪高等裁判所は控訴棄却の判決を言い渡した。そこで原告は、仮執行宣言付第一審判決にもとづき、前記家屋収去土地明渡の強制執行をしようとしたところ、被告は上告を提起するとともに強制執行停止決定の申立をなし、昭和三五年一〇月一九日大阪高等裁判所で強制執行停止決定を得たため、原告の右強制執行は上告審判決があるまで停止された。

三、そして、昭和三六年一〇月一二日最高裁判所で被告の上告は理由なしとして上告棄却の言渡があり、第一審判決が確定した。

四、被告の申し立てた上告およびそれに伴う強制執行停止はいずれも理由がなく、原告は、被告のこの不法行為によりつぎのとおり損害をこうむつた。すなわち、被告がもし強制執行停止の申立をしなければ、原告は昭和三五年一〇月一九日現在右判決の強制執行の結果更地となつた本件土地を他に賃貸することができたのに、この停止決定により、上告棄却の言渡のあつた昭和三六年一〇月一二日まで賃貸することができなくなつた。そして、昭和三五年一〇月当時この土地を更地として他に賃貸すれば、賃料として一ケ月二万円以上の収益をあげることができたから、結局原告は右一年間の賃料二四万円相当のうべかりし利益を失なつたのである。

五、よつて、被告に対しこの損害の賠償と、右金額に対する本件訴状送達の翌日である昭和三七年一月一四日から支払ずみまで法定利率による年五分の遅延損害金の支払を求める。

と述べ、被告の抗弁事実(二)を認め、(三)を否認した。<証拠省略>

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、

(一)、原告の主張一、ないし三、の事実は認めるが、四の損害額は否認する。

(二)、原告は、前記家屋収去土地明渡の訴と同時に、本件土地の不法占有にもとづく損害金の支払をも求め、これについては前記判決で、昭和三〇年三月一七日から土地明渡ずみまで一ケ月坪三五円の割合による損害金請求が認容せられたのである。

(三)、したがつて、原告主張のごとき高額な損害の発生は被告のまつたく予見できないところであり、本件土地の賃料相当の損害金は月坪三五円の範囲を出ないというべきである。

と述べた。<証拠省略>

理由

原告の主張一、ないし三の事実は争がない。したがつて、被告の申立による強制執行停止決定にもとづき、原告の前記仮執行宣言付勝訴判決の執行を妨げた被告の行為は、他に格別の事情のないかぎり原告に対する不法行為を構成し、これによる原告の損害を賠償する義務がある。そして、もし被告が強制執行停止の申立をしなければ、原告は右判決の仮執行により本件土地を更地とし、これを原告主張の期間中他に賃貸することができたことも、おのずから明らかである。

しかして、鑑定の結果によれば、本件土地の昭和三五年一〇月当時の更地としての賃料は、月坪五四八円をもつて相当とすることが認められ、証人御門正明の供述により成立の認められる乙一号証中、右認定と異なる記載内容は、右証人の供述および前記鑑定の結果と対比して採用しない。ほかに、この認定に反する証拠はない。

ところで、被告の主張(二)の事実は争がないが、そのような事実があるからといつて、被告の不法な執行停止による原告の損害が右の月坪三五円の割合の額を超えることがないとか超えることの予見可能性がないとかいうことはできないから被告の(三)の主張も理由がない。(なお、前記判決で認容された月坪三五円の損害金は、本件土地の不法占有による損害の賠償であり、本訴で原告が請求するところは、被告の不法な強制執行停止による損害の賠償であつて、その発生原因を異にし、したがつて訴訟物も異なる。)

しかし、本訴における前認定の月坪五四八円の割合の損害と、前記確定判決により認容された昭和三〇年三月一七日から土地明渡ずみまで月坪三五円の割合の損害とは重複する期間中における本件土地の賃料相当の損害という同一の経済的事由によるもので、その両者を重複して原告に取得させる理由はなく、本件請求額のうち前記確定判決によりすでに認容されている月坪三五円の割合の請求部分は、格別の事情がないかぎり訴の利益を欠くものということができる。

そうすると、原告の土地賃料相当損害金の請求は、月坪五一三円の割合による昭和三五年一〇月一九日以降昭和三六年一〇月一二日までの期間の合計額一二万九二四〇円(一ケ月未満は日割計算による)の範囲で理由がある。

よつて、右金額とこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和三七年一月一四日以降支払ずみまで法定利率による年五分の遅延損害金の支払を求める限度で本訴請求を正当として認容し、その余は失当であるから棄却し民訴九二条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山克彦)

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